相続手続き、脱・アナログ 新興勢が課題解消に一役

Nikkei Online, 2023年4月11日 11:00


相続を巡る課題を解消しようとスタートアップが動き始めた。家族信託サービスを手掛けるトリニティ・テクノロジー(東京・港)は単身高齢者の銀行口座と自社システムをデータ連携し、不正な引き出しなどを監視するサービスを始める。相続にはアナログさや煩雑さが多く残る。新興勢はデジタル技術で財産の保全や手続きの効率化を後押しする。



トリニティの新サービスはプログラムを連携させる「API(アプリケーション・プログラミング・インターフェース)」と呼ぶ技術を活用する。利用者が銀行や信託銀行に開いた口座とAPI連携し、データを専用システムで確認できるようにする。

預貯金を公共料金の支払いや病院の診療費に充てられるように、利用者には司法書士や行政書士と財産の管理委任契約を結んでもらう。その取引履歴をチェックし、不正が疑われる引き出しなどを見つけた際は状況を確認する仕組みだ。遠方の親戚らにも共有する。

身寄りがない場合、葬儀の代行などを請け負う公益財団法人に資金を預ける高齢者も多い。だが、その資金が流用される事件も過去に起きている。トリニティの磨和寛代表は「単身高齢者の財産は十分に監督されていないという課題を解決したい」と力を込める。

相続手続きはアナログな部分が多い領域だ。たとえば、名義変更に必要な書類の取得や申請のため何度も役所に足を運ぶこともある。

関連サービスの中心的な担い手だった金融機関でも、収益機会が大きい他の事業に比べると、相続はデジタル化投資などが遅れているとされる。そのなかで、独自の技術やサービスを提供するスタートアップが存在感を高めてきた構図だ。

家族信託の使い勝手の向上を急ぐのがファミトラ(東京・港)だ。自社のコンサルタントが使っているシステムを基に、一般向けにも提供する。

家族信託は認知症や介護時に備え、財産の管理・処分を家族に委託する方法だ。後見人制度などに比べて自由度が高いため利用が広がっている半面、手続きに税務や法務の専門知識が必要となる点が課題だった。

システムでは資産や債務、健康状態など気を付けるべきデータを整理。本人確認書類や印鑑登録証明書の提出など煩雑作業の手順も分かりやすく示す。「家族信託の普及に向けて効率化を図る」(三橋克仁代表)



AGE technologies(エイジテクノロジーズ、東京・豊島)は幅広い相続財産への対応を進める。株式や投資信託、生命保険などの手続きをサポートするオンラインサービスを始める。

現状は相続した不動産の名義変更と、銀行口座の払い戻しを支援するオンラインサービスを手掛けている。不動産であれば、戸籍謄本一式や固定資産評価証明書などの取得を代行。利用者はスマートフォンやパソコンで情報を入力すれば、必要書類も手軽に作成できる。2万1000件を超える不動産を扱ったという。

この仕組みを株式などにも応用する。事業拡大に備え、ベンチャーキャピタル(VC)のKUSABIなどから3億4000万円を調達した。

NTTデータ経営研究所などが2021年に東京や大阪の都市部に暮らす50〜60代を調べたところ、別居している親の資産を「把握していない」と回答した割合は63.5%に上った。

総務省の家計調査(21年)で2人以上世帯の貯蓄額をみると、世帯主が70歳以上では約2310万円だ。準備不足で相続が円滑に進まなければ資産凍結の懸念もある。

相続手続きを巡っては政府も「死亡・相続ワンストップサービス」を目標に掲げる。情報のデジタル化やオンライン認証などを通じ、相続人の負担軽減を目指している。

総務省の人口推計によると、65歳以上の人口は23年3月時点で3621万人。総人口に占める割合は3割に迫り、20年間で10ポイント増える。高齢化が進むなかで相続問題の解決は待ったなしで、新興勢が果たす役割は小さくない。

(上原翔大)