デジタル遺言制度を創設へ 政府、
ネット作成・署名不要

Nikkei Online, 2023年5月5日 11:30


政府は法的効力がある遺言書をインターネット上で作成・保管できる制度の創設を調整する。署名・押印に代わる本人確認手段や改ざん防止の仕組みをつくる。デジタル社会で使いやすい遺言制度の導入により円滑な相続につなげる。


法務省が年内に有識者らで構成する研究会を立ち上げ、2024年3月を目標に新制度の方向性を提言する。法相の諮問機関である法制審議会の議論を経て民法などの法改正をめざす。


現行制度で法的効力がある遺言書は3種類ある。本人が紙に直筆する自筆証書遺言、公証人に作成を委嘱する公正証書遺言、封書した遺言書を公証役場に持参する秘密証書遺言だ。


自筆遺言には国による保管制度がある。法務省が2018年に発表した推計では作成済みと作成予定の合計で1204万人の需要があった。公正証書遺言は22年に11万1977件の利用があった。秘密証書はほとんど使われていない。


新制度では自筆遺言をパソコンやスマートフォンで作成し、クラウド上などに保管する案がある。

現在の自筆遺言は本人がペンを使って本文や作成日を書いて署名・押印しなければ法的効力を持たない。法務局に預けて亡くなった後で受け取りを請求する制度は用紙の大きさや余白やページ番号のふり方まで細かい規定がある。


不動産や現預金など相続する財産を一覧化した財産目録も作成しなければならず、高齢者が自筆遺言を作るのは簡単でない。弁護士らの助けが必要になるケースが多い。


ネット上での作成が可能になればフォーマットに沿って入力する形になるため遺言制度に詳しくない人でも自分でつくりやすい。紙の遺言書と違って紛失リスクがなく、ブロックチェーン(分散型台帳)技術を使えば改ざんもされにくい。


デジタルでの相続対策サービスを手がけるサムライセキュリティ(東京・渋谷)の浜川智最高経営責任者(CEO)は「デジタル化で遺言作成の利便性が高まれば利用者の裾野が広がる」とみる。

海外では紙以外の遺言制度の整備が進んでいる。法務省などの資料によると、米国は19年に電子遺言書法を定めた。

2人以上の証人の前で電子署名すればデジタルでの遺言書を認めた。導入は各州の判断に委ねられており、これまでにネバダ州やフロリダ州などが取り入れた。

韓国も遺言を残す本人による趣旨説明や証人の立ち会いで録音の遺言が効力を持つ。


一方でドイツやフランスなどまだデジタル形式や録音での遺言を認めていない国もある。
遺言書は通常の契約と異なり本人が死去した後に使う。
事後の意思確認ができないため、電子化への慎重論もある。


政府はこうした意見を踏まえ、安全性や実効性を担保できる制度設計を探る。